◆◆ノミ、マダニの予防と対策◆◆


▽ノミの被害と生活環

 ノミと一口に言っても、実は幾つかの種類があります。基本的には、イヌノミは犬に寄生し、ネコノミは猫に寄生し、人にはヒトノミが寄生する、と考えられていました。ところが数年前の調査により、ネコノミは猫のみならず犬や人などにも寄生することが知られるようになり、犬や猫などのペットに寄生しているノミの多くが、実は「ネコノミ」であるということが判明しています。
 ノミによる被害としては、まず吸血による皮膚炎が挙げられます。ノミに刺されると、非常に強い痒みが生じます。またノミに対してアレルギーを持っている場合には、刺された部位だけではなく全身に痒みが生じる場合もあり、少数の寄生でも非常に重い症状が現れることも珍しくありません。激しい痒みのために皮膚を掻き壊して出血したり、睡眠不足になったりする可能性もあります。犬や猫に寄生したノミ(特にネコノミ)がヒトにも一時的に寄生して被害をもたらすこともあります。また、ノミは条虫(サナダムシ)を媒介することでも良く知られています。動物の糞便に混じって環境中に排泄された条虫の卵は、ノミの幼虫に食べられます。条虫の幼生を体内に宿したまま、やがて成虫になったノミは犬や猫の皮膚に寄生し、痒みのために動物が皮膚を舐めたり齧ったりした拍子に口から飲み込まれてしまいます。飲み込まれたノミの体は胃の中で消化されてしまいますが、条虫はそのまま動物の小腸に寄生して成長する、というのが条虫のライフサイクルです。つまり、条虫が寄生していたら必ずノミがいる(いた)ということになります。
 ノミの成虫は寄生している動物の体表で産卵しますが、卵は外界に落下して孵化します。したがって、動物の寝床などが「ノミの巣」になっていることがよくあります。ノミの幼虫は主に成虫の糞を食べて大きくなり、やがて蛹から成虫になって、再び犬や猫に寄生します。

▽ノミの予防と対策

 ノミの生活環を見ても判るように、ノミを駆除するためには動物の体表についた成虫を駆除するだけでは不十分です。すでにノミが多数寄生しているような場合は、その動物の寝床にはノミの幼虫や蛹が大量に生息している可能性が高いので、ノミ取りシャンプーや成虫駆除剤では一時的な効果しかなく、まして「ノミ取りグシ」で1匹1匹捕まえても殆ど意味がありません。
 ノミの場合も、被害に合ってから慌てて対策を考えるよりも、予防する方がずっと楽でもあり、重要なことです。ノミの予防薬は「成虫駆虫薬」と「繁殖予防薬」に分けることができます。成虫駆虫薬は字のとおり、寄生した成虫を駆除する薬で、皮膚に滴下するスポットタイプのものなどが一般的です。繁殖予防薬というのはノミの卵が孵らないようにする薬のことで、これには飲み薬のタイプと、スポットタイプの成虫駆虫薬と合剤になっているものものがあります。合剤になっているものは、成虫の駆除と繁殖予防が同時にできます。すでにノミの被害が発生している場合には、成虫駆虫薬と繁殖予防薬を併用するとともに、環境中の幼虫や卵を駆除する必要があります。ノミは湿度の高い環境を好むので、風通しを良くして乾燥させることが大切です。また動物が寝床として使用していたタオルや毛布などを新しいものに取り替えたり、スプレー式のノミ駆除剤やバルサンなどの殺虫剤を使用することもある程度有効でしょう。
 ノミは既にノミを持っている動物と接触したり、ノミに汚染された環境に立ち入ることで感染しますが、完全室内飼育だからと言って安心することはできません。全く予防をしていない場合には、ほんの少数の寄生が甚大な被害に拡大する危険性もあります。特に梅雨時から夏場の高温多湿の時期は、しっかりノミの予防をすることが大切です。

▽マダニの被害と対策

 ノミに次いで重要な外部寄生虫がマダニです。マダニは犬や猫などの皮膚に寄生し、頭の一部を皮膚の中に突っ込んだ状態で吸血します。血液を一杯に吸い込んだマダニは、直径が1cmくらいになることもあり、放っておくとやがて落下して野外で産卵します。草むらで孵化したマダニの子供は丈の高い草に登りながら成長し、徐々に草の先端に移動します。そして犬や猫、ヒトなどが傍を通りかかったときにその体表に移動して寄生します。
マダニの被害としては、大量寄生により貧血を起こしたり、ある種のウイルスやリケッチア、血液寄生性原虫などの病原体を媒介することもあります。また動物が掻いたり舐めたりした拍子に皮膚に食い付いていたマダニの胴体が取れてしまい、頭部だけが皮膚の中に残って化膿する場合もあります。慣れない人が、動物の皮膚に寄生してるマダニを見つけて「もぎ取る」と、これと同じことが起きて化膿する場合があるので、マダニを見つけたときには動物病院で取ってもらうことをお勧めします。
マダニの駆虫・予防はノミの対策と同様、皮膚に滴下するスポットタイプの薬剤が一般的です。ノミの成虫駆虫薬の中にはマダニを同時に駆除できるものもありますので、特に野外に出る機会の多い犬や猫ではしっかり予防することが大切です。


 

◆◆ノミの被害と予防の必要性◆◆


 

 実はノミの被害は前述したような「刺されることによるノミ皮膚炎」や「ノミアレルギー」、「条虫の媒介」に留まる訳ではありません。先日2005年6月19日)、アメリカのコロラド州立大学の内科学専門医であるDr.Lappinの講義を拝聴し、特に猫の寄生虫疾患を中心に「最新情報」を得る機会があったので、その内容のうち主に「ノミの被害」について、かいつまんでご紹介したいと思います。

▽ノミは危険な寄生虫!!

 ノミに刺されると皮膚炎を引き起こしますし、子犬や子猫などに大量に寄生して吸血した場合には貧血が起きることもあります。しかしそれよりも大きな問題として、血液から感染する様々な病原体を媒介する「ベクター」となる、と言う点が挙げられます。ノミが媒介することが知られている猫の病気としては、以下のようなものがあります。

・ネコ引っかき病(バルトネラ;Bartonella henselae)
・マイコプラズマ症(Mycoplasma haemofelis, M. haemominutum)
・ネコリケッチア(発疹チフス)
・猫白血病ウイルス(FeLV)

 このうち、猫引っかき病(バルトネラ症)ネコリケッチア(発疹チフス)人畜共通感染症;つまりヒトにも感染する病気です。ヒトが猫引っかき病に感染すると、リンパ節が腫れて膿が出たり発熱したりと、様々な症状を引き起こします。特にHIV患者の方や臓器移植、アトピーなどで免疫抑制剤を使用している方などの場合には、症状が重篤化する可能性が高いので要注意です。バルトネラは猫だけではなく、犬にも感染していることがあります。発疹チフスも、発疹を伴う発熱や疼痛、重症の場合には神経症状が現れて昏睡状態になることもあると言う、非常に怖い病気です。
 マイコプラズマ症は、少し前までは「ヘモバルトネラ症」と呼ばれていた、猫の赤血球に寄生して「猫伝染性貧血」を引き起こす病原体です。FeLVはご存知の通り、白血病症状やリンパ腫などの腫瘍性疾患を引き起こす、猫の伝染病です。マイコプラズマやFeLVはヒトには感染しませんが、猫に感染し発症すると命を落とす場合もある非常に怖い病気です。
 バルトネラは、ノミの糞便中で9日間生存することが判っているそうです。猫が毛づくろいをしたりした際に、爪の間などに「ノミの糞」が入り込み、その爪で引っかかれることにより、傷口からバルトネラが入り込んでヒトに感染するのではないか、と考えられています。その他、ノミの糞が直接ヒトの傷口や粘膜などから入ることで感染する可能性もあるようです。またネコリケッチアは主に、口や鼻からノミの糞を吸い込むことで、ヒトに感染すると考えられています。

 このように、ノミは人畜共通感染症を含む様々な病原体を媒介していることが知られています。猫自身をノミの被害から守るために「ノミの予防」をすることは当然のことですが、特に小さなお子さんがいる家庭や、高齢の方、免疫低下を伴うような病気を持った方などが一緒に生活している場合には特に、ノミやその他の寄生虫の予防・駆除をしっかりすることが、非常に重要です。きちんとノミのコントロールを実施することは、猫だけではなく一緒に生活するヒトの健康を守るためにも、絶対に必要なことなのです。

▽その他の人畜共通感染症

 バルトネラやリケッチアの他にも、猫からヒトに感染する病気には様々なものがあります。主に猫の糞便が感染源となる人畜共通感染症を以下に挙げます。

・鉤虫症
・カンピロバクター症
・クリプトスポリジウム症
・ジアルジア症
・サルモネラ症
・猫回虫症
・トキソプラズマ症


  これらの感染症の中には、下痢などの症状を引き起こして数日で自然に回復するようなものもあれば、回虫症のように「眼球」に迷入して失明を引き起こすような怖い病気も含まれます。健康なヒトにとってはそれ程大きな問題とはならなくても、何らかの原因で免疫の低下しているヒトに感染すると、極めて重症となる感染症もあります。これらの「糞便からうつる」感染症の中には、病原体が感染力を持つまでに数日かかるようなものもあるため、「トイレを毎日きれいに片付ける」と言うことは有効な予防手段となります。
 これらの人畜共通感染症によるヒトおよび環境への被害を最小限に食い止めるため、アメリカのCDC(疾病予防管理センター)およびCAPC(伴侶動物寄生虫協議会)では、以下のような駆虫プロトコールを推奨しています。

・子犬とその親犬は、生まれて2週、4週、6週および8週目に駆虫し、その後は半年齢まで毎月1回駆虫する。
・子猫とその親猫は、生まれて3週、5週、7週および9週目に駆虫し、その後は半年齢まで毎月1回駆虫する。
・成犬、成猫では生活環境により1年に2〜4回糞便検査をし、必要な治療を行う。

 そして特に外出する機会の多い犬や猫の場合は、1年に12回(毎月1回)駆虫を行うことが推奨されると言うことです。

▽乳幼児や病人のいる家庭では動物を飼わないほうが良いのか?

 これだけ怖い「人畜共通感染症」があるのですから、乳幼児や高齢者、HIVその他の免疫低下状態の方のいる家庭では犬や猫などの動物を飼うべきではないのでしょうか?新聞やヒトの医療関連のサイトなどでは、このような内容の記述を眼にすることがあります。しかし、アメリカのCDCでは「HIV感染者のための、ペットからの感染を防ぐための手引き」と言うものを出しており、このガイドラインに従って犬・猫を管理すれば「HIV患者でもペットを飼うことをあきらめる必要はない」と言っています。ですから、きちんと飼育することができれば、小さな子供や寝たきりのお年寄りのいる家庭でも、飼育をあきらめたり放棄したりする必要は全くないのです。「下痢や皮膚病などの症状が無く健康で、寄生虫の予防とワクチン接種をしっかりしてある犬・猫は、ヒトに病気を移すリスクは殆どない」と言われています。自分自身や子供の身を守るため、そしてヒトと動物がいつまでも健康に幸福に共存して行くために、定期的な駆虫ワクチン接種は必要不可欠という訳です。

 ここで何故「人畜共通感染症を防ぐために猫のワクチン摂取が必要なのだろう?」と思われた方もいるかもしれません。確かに猫のワクチンの対象となっている病気(FVR, FCV,FPV+FeLV)はヒトにうつる病気ではありません。しかし、これらの「猫特有の」感染症にかかっている猫は、その他の病原体の感染に対しても非常に弱く、そのためヒトに対して様々な感染症をもたらすリスクが高くなる、というのが「ワクチン接種が不可欠」である理由です。


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