◆◆手術後の縫合創の管理について◆◆


 

 手術の際には通常、最後に皮膚を縫合します。普通はナイロン糸などの「非吸収性・モノフィラメント」の糸を使用しますが、ステープラー(皮膚縫合用ホッチキス)などを使用する場合もあります。
 一昔前までは、縫合した術創を毎日イソジンなどの消毒液で消毒する、というのが「常識」でしたが、現在はそのような行為には意味が無いということが判っており、傷口の消毒をお願いすることはありません。むしろ、消毒をすると傷の治りが遅れる可能性があるため、縫合した術創の消毒は「してはいけない」というのが最近の常識です。

 動物の場合は、縫合創を舐めたり齧ったり、引っかいたりして、縫った皮膚が開いていしまったり糸が取れてしまったりすることがあります。このような事態を防ぐため、術後数日間は「エリザベスカラー」などを首に巻いて、傷を舐められないようにするなどの必要があります。しかし、術創をそれ程気にしない動物の場合には、軽く包帯を巻いたり、T-シャツなどを着せて傷を直接舐めないようにするだけで充分なこともあります。

 ナイロン糸やステープラーで皮膚を縫合した場合には、通常1週間から10日で抜糸ができるようになります。退院から抜糸までの間は、特に家でしていただくことはありませんが、舐めたりしないように充分注意していただく必要があります。念のため1〜2回の通院で傷のチェックをさせて頂く場合もあります。避妊や去勢などの手術では、術後に全力疾走で走り回ったり転げまわったりしない限り、必要以上の「安静」は必要ありません(もちろん骨折の手術や椎間板の手術などの場合は厳重な安静が必要です。個々の手術により術後の注意事項が異なりますから、その都度注意して説明を受けてください)。

 下の写真は、当院で行った犬の不妊手術の術創管理の様子です。当院では通常の開腹手術の際には、写真1のように「吸収性・モノフィラメント」を使用して連続皮内縫合(「皮内」と言っても実際には真皮縫合です;皮内に糸を通すべきではありません)を行い、皮膚の縫合はしません。開腹手術などの「テンション」がかからない部分の縫合の場合には、この方法を適応することができます。この縫合創にフィルムドレッシングを被覆したのが写真2です。フィルムドレッシングは非常に薄いため、写真ではちょっと判り難いかもしれません。この犬の場合には、エリザベスカラーはせずに、家で洋服を着せて傷を直接舐めないようにしてもらいました。特に包帯も巻いていません。


写真1

写真2
 写真3は術後3日目の写真です。フィルムの下に滲み出た血液で少し茶色くなっていますが、特に問題はありません。フィルムをはがしたのが写真4です。皮膚を縫合していないため抜糸が不要で、フィルムを使用しているため「カサブタ」ができず、傷が非常にきれいにくっついているのがお分かりになると思います。


写真3


写真4
 

 抗生物質は手術前に1回注射するだけなので、自宅で薬を飲ませる必要はありません。当然自宅で傷を消毒する必要もなく、3日経ったらフィルムを剥がして終わり、といういたって簡単な術後管理です。また、腹壁・皮下組織・真皮の全てを吸収糸で縫合しているため、最終的には術創内部に「異物」が一切残りません。

▽注意点
 消化管吻合や子宮蓄膿症、細菌性の腹膜炎など、汚染・感染を伴う手術では、上記のような閉鎖方法ができない場合があります。また、子猫や老齢の動物など、痩せて皮下脂肪が殆ど無く、皮膚が非常に薄いような場合にも、この縫合方法が困難な場合があります。腹部以外の、テンションや動きが加わる部位の縫合では、きちんと皮膚を縫合する必要があります。また、稀にフィルムドレッシングの粘着成分にアレルギーなどを起こして「かぶれ」が見られる動物もいますので、ご了承ください。


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