◆◆猫のワクチン接種について◆◆


▽ワクチンの種類

 猫のワクチンは「3種混合」が主流でしたが、最近では4種、5種というものが出ています。3種混合ワクチンには以下の病気に対するワクチンが含まれています。

1.猫伝染性鼻気管炎(FVR)
2.猫カリシウイルス感染症(FCV)
3.猫汎白血球減少症(猫パルボ;FPV)

 この3種を中心として、猫白血病ウイルス(FeLV)のワクチンを追加したものが4種混合、さらにクラミジアのワクチンを追加したものが5種混合になります。FeLVのワクチンはそれだけ単独のものがありますが、クラミジア単独のワクチンは現在のところ日本にはありません。
 また2008年7月より猫エイズウイルス(FIV)感染症に対するワクチンが接種可能になりました。ただし、当院では現在のところ性急な導入を見合わせております。

 

▽ワクチン接種の必要性
 

 FVRやFCVは屋外の猫では非常に頻繁に見られるウイルス感染症です。FVRは激しい鼻炎や気管支炎、結膜炎、角膜炎を引き起こします。子猫ではこびり付いた目ヤニで目が開かなくなってしまったり、著しい角結膜炎のため瞼と眼球の角膜が癒着してしまうこともあります。FCVはFVRと似たような症状を示すものもありますが、口内炎や舌炎を起こすことで知られています。どちらもそれだけでは致死的ではありませんが、体力の無い子猫の場合には、脱水や栄養不良などを引き起こして死亡してしまう可能性もあります。これらのウイルスは感染力が非常に強く、一度感染すると慢性化することが多いため、ワクチンでしっかり予防することが大切です。

 FPVは最近ではあまり見かけなくなりましたが、地域によってはまだ多くの発生が見られるところもあります。この感染症にかかると激しい嘔吐と水様性の下痢を起こし、白血球減少症を引き起こします。非常に死亡率の高い怖い病気なので、ワクチンで予防することが推奨されます。

 完全室内飼育の猫でも、たまたま脱走してしまったり、外猫が室内に侵入してきたり、あるいは飼い主自身が外で感染猫に触ってウイルスを持ち込んでくることもあるため、決して感染の機会が無い、という訳ではありません。室内、屋外飼育を問わず、3種混合ワクチンは全ての猫で接種すべきである、と考えてよいでしょう。

 FeLV;猫白血病ウイルスは、FeLVに感染した猫に噛まれたり、傷を舐め合ったりなどの濃厚接触をすることにより感染します。このウイルスに感染すると、白血球減少症を起こしたり、リンパ腫などの腫瘍性疾患を発症するリスクが高くなります。ワクチンを適切に接種することで感染率を減少させることができますが、このワクチンは(特に海外で)接種部位にしこりが出来たり、そのしこりが悪性腫瘍化するという副作用が報告されています。通常、動物のワクチンは背中の肩甲骨の間に接種するのが普通ですが、ここで悪性腫瘍が発生すると、手術により切除するのが非常に困難になってしまいます。そのため、FeLVワクチンを接種するときは背中ではなく、後ろ足や尻尾の先に注射することが推奨されています。これは、万が一接種部位に腫瘍が出来たとしても、後ろ足または尻尾を切除することでその猫の命を救うことができるからです(3種混合ワクチンなどでも接種部位に小さなしこりが出来ることがありますが、これはワクチンに対して生体が反応している証拠で、通常は数日から1週間程度で無くなります)。

 ※上記の「ワクチン接種部位肉腫」ですが、以前はFeLVワクチンや狂犬病ワクチンなどの不活化ワクチンのみで発生すると考えられておりましたが、猫では3種混合ワクチンをはじめあらゆる(ワクチン以外の)皮下注射でもこのような状況が生じる可能性がある、ということが判明してきており、そのため当院では3種混合ワクチンの場合も後肢の膝より遠位の皮下に接種するようにしています。

 このような重大な副作用のリスクがあるため、FeLVのワクチンは「屋外で飼育されており、よく喧嘩して来る」など、FeLVに感染する確立の高い猫にだけ、必要に応じて接種するのが最良の方法である、というのが当院の考え方です。

 

▽ワクチン接種プログラム

 生まれたばかりの仔猫は、免疫系が未発達なので、自分で免疫抗体を作ることができません。抗体を作れるようになるまでは、母親の初乳に含まれていた移行抗体という免疫抗体によって様々な病気から守られています。この移行抗体は、生後約8週間目くらいから徐々に減少し始め、12〜13週間目くらいでほぼ消滅します。

 この時期、仔猫も徐々に自分で抗体を作れるようになって来ますが、移行抗体は減少するため感染を防御する能力も次第に弱くなってきます。従ってこの時期に最初のワクチンを接種する必要があるのですが(「ワクチンを打つ」ということは、「自分で抗体を作らせる」ということです)、ここで問題が一つあります。移行抗体が仔猫の体に残っていると、ワクチンを接種しても、きちんと抗体を作ることができません。ですから、この期間、病気から仔猫を守り、最終的に、ワクチンによってしっかりと抗体が作られるようにしなければなりません。そのためには、移行抗体が減少し始める8週目くらいから完全に無くなってしまう13週目までの間に数回にわたってワクチンを接種するのが最も効果的です。  

 このようにして考えられたワクチンの打ち方(いつから、どのくらいの間隔で、何回打てばよいか)を、ワクチネーション・プログラムといいます。 ワクチネーション・プログラムは、仔猫の生活環境やワクチンの種類などによりいくつかの方法がありますが、通常は、生後2カ月目(約8〜9週)と3カ月目(12〜13週)に1回づつの計2回接種する方法が一般的です。そして次の年からは、年に1回づつ接種するのが理想的です。

 初年度のワクチネーション・プログラムにより得られた免疫は、約1年間効果が持続しますが、時間がたつと次第に効果が落ちてきます(「抗体価が下がる」といいます)。1年に1回ワクチンを追加接種することにより、下がってきた抗体価を再び上昇させ、感染に対する免疫力を高めることができます。これをブースター効果と言います。 初年度のワクチネーション・プログラムの最後のワクチン接種(12〜14週目)後1-2週間(免疫の効果が出始める)は、感染の危険性のあるような場所に連れ出したり、他の猫と接触させたりしないようにすることが大切です。

 

▽猫のワクチン接種は3年に1回でよい?

 数年前から「猫のワクチン接種は3年に1回で充分」という噂?が広まっているのをご存知かもしれません。これは、アメリカの猫内科学会および米国猫臨床医協会が2000年に出した報告した推奨プログラムが元になっているのですが、実はアメリカと日本では状況が異なります。アメリカでは、日本で主流となっている3種・4種に加えて狂犬病ワクチンやクラミジア(これは最近日本でも発売されましたが)、FIP(猫伝染性腹膜炎)、FIV(猫エイズ)など、非常に多くのワクチンが出回っており、これら全てを毎年接種することは経済的にも猫自身の身体的にも非常に負担が大きくなる、との考えが根底にあります。従ってそれぞれのワクチンは3年に1回でも、結局ローテーションで毎年何らかのワクチンを接種していることになるのです。

 日本で製造・販売されているワクチンは全て、「1年に1回の接種」で認可が下りています。従って、3年に1回の接種で万が一FVRやFCVに感染・発症したとしても、メーカーとしては何の保障もしてくれません。また殆どの場合、動物用の保険にも加入することができません。ペットホテルやペット同伴可の宿泊施設などでも、年に1回のワクチンを接種していない場合には宿泊を断られるのが普通です。
 また日本では、アメリカに比べてワクチンの接種率そのものがまだまだ低いのが現状です。全国の猫の飼育頭数に対するワクチン接種率が低いと、免疫の保持率のばらつきが大きくなり、集団としての免疫保有率が低下してしまいます。現状でも「集団免疫」としての役割を十分果たすだけのワクチン接種率に達していない状態で、更にワクチン接種の機会を減らす方向性を日本で推奨することは、今の段階では危険性が高いのではないか、と考えられます。もちろん、ワクチン接種率そのものが高くなり、皆が確実に3年ごとにワクチンを接種する、と言う状況になれば、それが最も理想的な状況ではあります。将来的には、日本でも安心してこのような接種プログラムが可能になると良いと思います。

 以上のようなリスクやデメリットを了承した上で、それでも3年に1回の接種にしたい、という方もいるかもしれません。もちろんこれらの混合ワクチンは、「犬の狂犬病ワクチン」のように法律で定められたものではありませんので、自己の責任に於いてよく考えながら判断されることをお勧めします。

 

▽ワクチン接種後の注意
 猫の場合も、犬と同様にワクチンを接種した後にアレルギーなどの副作用を起こす可能性があります。注意点としては犬の場合と基本的に同様ですので、こちらを参考にしてください。
 

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