■■「耳の毛、抜く派?抜かない派?」■■


以下の文章は、「ペット倶楽部」という月間フリーペーパーに執筆したものです。


耳の毛、抜く派?

 普段何の気なしに、ごく当たり前のようにしている行為でも、ふと「これって本当に正しいのだろうか?」と疑問に思うことがあるものです。以前「シャンプー」に対する疑問について書いたことがありますが、今回もまた以前から抱いてる疑問を幾つか紹介してみたいと思います。

 まず一つ目は、「耳掃除の際に耳の中に生えている毛を抜くべきかどうか?」という問題。ミニチュアシュナウザーや最近流行のトイプードルなど、品種によっては耳の穴の奥の方にまで毛が生えている場合があります。個体差にもよりますが、シーズーなどの犬種でも、時折耳の中に比較的多くの毛が生えている子がいます。トリミングショップなどでシャンプーのついでに耳のお掃除をしてもらうと、殆どの場合、耳の毛をきれいに抜いてくれるのではないでしょうか?私の知り合いのトリマーに聞いてみたところ、トリミングの学校では「耳の毛はしっかり抜くこと」と教えるそうです。トリミングショップに限らず、動物病院で耳掃除をする場合にも、耳の中に生えている毛はしっかりと抜いてくれるところが多いのではないかと思います。私の場合も、以前勤務していた病院では「耳の毛は抜くべきである」と教わりました。その理由は、「耳の中の毛がモゾモゾしてかゆみの原因になるから」「耳垢が溜まりやすくなって外耳炎の原因になるから」「耳掃除がやり難いから」「昔からそれが『当たり前』とされているから」と言ったところでしょうか?

 しかし数年前のこと、「生えるべくして生えている毛をわざわざ抜くのは不自然なのではないか?」と、例のごとく突然疑問に思い、アメリカで皮膚科の専門医をしている知り合いの獣医師などに意見を聞いてみると、「毛を抜く刺激によっても炎症が引き起こされる。必要が無ければ抜くのは最小限にする。どうしても抜く場合には脱毛クリームなどを使用する人もいる。」という見解でした。これを聞いて「なるほど、やっぱりそうか。」と思った次第ですが、脱毛クリームに関しては、化学的な作用で蛋白質を融解させる薬品なので、炎症を起こした耳には使用すべきではないだろう、と私は考えています。

 「生えるべくして…」と言っても、これらの犬種で耳の毛が何らかの役に立っている、と考えているわけではありません。大多数の犬種では耳の中に毛は生えていませんし、人為的な品種改良の中でたまたま生えるようになってしまっただけなのだと思います。しかし、耳の中に毛が生えている犬種と、外耳炎を起こし易いと言われている犬種は必ずしも一致していません。これは「毛が生えていること」自体が外耳炎の原因になっている訳ではない、と言うことを示しているのではないでしょうか?

 現在私の診察では、耳の毛抜きは必要最小限にしています。昔のように、まるで「長年の仇敵」のように(?)「耳毛憎し!」とばかりに1本たりとも残さず引っこ抜く、と言うことはしなくなりました。健康な耳で、毛が生えていても特にそれが問題を引き起こしていなければ無理に抜く必要はない、と言うのが今の私の考えです。もちろん、毛が生えていることで耳垢が絡まって掃除が適切に出来ない場合や、外耳炎の治療の妨げになる場合など、明らかに「毛による弊害」がある場合には「抜く」のが必要なこともありますが、「毛の存在」自体が外耳炎の原因になるとは考え難く、過剰な抜毛は却って炎症を引き起こしたり、耳掃除を嫌いにさせたりする原因になるのではないか?と思っていますが、皆さんのお考えは如何でしょうか?


 もうひとつの疑問として取り上げるのは、「トリミングの際にヒゲを切るかどうか?」という問題です。「どちらでも良いではないか」と思われるかもしれませんが、猫のヒゲを切るのはためらう方が多いのに、犬のヒゲは切っても然程気にしない、というのは何故でしょうか?
 確かに猫の場合は、高いところに登ったり狭い場所に入り込んだり、小さな隙間を潜り抜けたりなど、立体的な行動が多いため、犬に比べて「感覚器官」としてのヒゲがより重要な役割を果たしているような気がするのは確かです。では、犬では「感覚器官」としてのヒゲの働きは「皆無」なのでしょうか?
 実のところ、これに関する「明確な情報」は残念ながら今のところ持ち合わせていません。以前読んだ解剖学関連の本では、ラットやマウスなどのげっ歯類の脳には、それぞれ1本1本のヒゲに対応した「感覚野」が存在すると言うようなことが書かれていたと記憶しています。ネズミの脳と犬の脳が同じである、と言いたい訳ではありませんが、犬のヒゲが「何の役にも立っていない」と言うのもまた、確証のない意見であるような気がします。ヒゲを切られても、猫ほどには困らないのかもしれませんが、やはりそれなりの不都合があるのではないか?それは傍から見ても良く判らないような些細なことかもしれませんが、本人(犬)にとっては(もしかしたら)結構深刻な変化なのかもしれない…とは思いませんか?


 

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