■■中毒〜こんな意外なものが危険?!(その1)■■


以下の文章は、「ペット倶楽部」という月間フリーペーパーに執筆したものです。
 

 数年前のことになりますが、私の勤務していた病院に、ある犬の飼い主の方から質問の電話がかかって来ました。お話を伺ってみると、その方の犬が何とか言う「お茶」を葉っぱごと一袋全部食べてしまい、その後痙攣などの神経症状を起こして亡くなってしまった、と言うことでした。人間が普段、何の問題も無く(むしろ健康に良い、と思って)飲んでいる「お茶」を食べたことが原因で、本当にこのようなことが起こるのでしょうか?というのがそのときの質問でした。お茶にも色々な種類があり、私自身もそれらひとつひとつのお茶の成分やその含有量などに関して詳しいわけではありませんが、一般的な回答として以下のように答えた記憶がありあます。

 「大抵のお茶と言うのは普通、カフェインやテオブロミンなどの成分が含まれていますし、ハーブティなどにはそれ以外にも様々な薬用成分が含まれていることが知られています。それぞれのお茶に適した方法で飲用に供する場合には、これらの成分が毒性を示すことは殆どありませんが、『お茶の葉をそのまま食べてしまう』とか、『煮出してはいけないお茶を煮出して飲む』とか、指定された用法以外の方法で摂取した場合には、有害な作用を示す可能性を否定することは出来ません。しかも人間に比べて、犬のほうがカフェインなどに対する感受性は高いと考えられますので、何十杯分ものお茶の葉を大量に食べてしまったと言う場合には、これらの物質による中毒を起こして、場合によっては死亡してしまうことも考えられないことではありません。」

 電話による質問でしたので確定的なことは言えませんが、お茶に含まれる成分による中毒の可能性は充分あると思われました。このように、一般的には安全(あるいは体によい)と思われているものでも、摂取の方法や量、あるいは摂取する動物の感受性によっては危険なこともあります。「毒物・中毒物質」と言うと、医薬品や家庭内の洗剤類、殺虫剤や除草剤、タバコやアルコール類などを直ぐに思い浮かべるのが普通だと思いますが、今回はこのような「明らかに危険なもの」ではなく、一見すると安全そうなものの中から中毒を起こす可能性のある「意外なもの」を幾つか紹介したいと思います。

 アメリカのASPCA Animal Poison Control Center(動物の中毒管理センター)は、2003年4月から2004年4月までの間に「ブドウおよびレーズン」を摂取したと言う犬の報告を140例受けており、そのうち50例では嘔吐や腎不全などの症状を示し、うち7例が死亡したと報告しています。実際にはブドウ・レーズンに含まれる何と言う成分が、犬に対して毒性(主に腎毒性)を示しているのか、と言うことは判っていませんが、現段階では犬に対してブドウやレーズンを与えることは避けるべきである、と警告しています。
 また同様にASPCA Animal Poison Control Centerによって報告されたマカダミア・ナッツに関連した中毒は、1987年から2001年までの間に48件あったそうです。人では、マカダミア・ナッツによるアレルギー・ショックが報告されているそうですが、犬の場合の症状は嘔吐や虚脱、沈うつ、運動失調、高体温などで、人の場合の症状とは異なっています。この場合も、本当の原因物質はまだ特定されていませんが、やはり犬にマカダミア・ナッツを与えるのはやめたほうが良いでしょう。(→マカダミア・ナッツ中毒pdf.)

 漢方薬や生薬などは「副作用が無く安全」などと考えがちですが、実は必ずしもそうではありません。例えば、マオウ(麻黄)と言うのは気管支拡張剤であるエフェドリンの原料で、漢方薬などには普通に含まれている成分ですが、多量に摂取すると興奮、痙攣、幻覚、心拍・血圧上昇などの症状を引き起こすことが知られています。また朝鮮人参に含まれるサポニンと言う成分には、血糖値やコレステロール値を下げたり、血圧や造血作用を刺激する働きがあると考えられていますが、かなり大量に摂取した場合には中毒を起こす可能性があると考えられています。(→マオウの危険性に関してはこちらpdf.)

 普段何気なく庭先や部屋などに飾っている観葉植物の中には、食べると非常に危険な毒物を含んでいるものが沢山あります。これからクリスマスの時期になると良く見掛けるようになるのがポインセチアです。あの緑と赤のコントラストがまさに「クリスマス」の雰囲気を醸し出すので、非常に人気のある観葉植物です。ポインセチアは、以前考えられていたほどには強力な毒性は持たない、と言うことが最近の研究で判ってきたようですが、一株まるまる食べてしまうようなケースでは、下痢や嘔吐、咽喉頭や食道の炎症を引き起こす可能性があります。また小型犬や子犬などでは、少量でも中毒を起こす可能性は否定できませんので、充分注意する必要があるでしょう。クロガネモチはナンテンに似た赤い実をつける植物で、英語ではHollyなどとも呼ばれ、やはりクリスマスの時期に良く見掛ける植物のひとつですが、この実と葉にはイリシンと呼ばれる物質の他、カフェインやテオブロミンなどの成分が含まれており、大量に摂取した場合には中毒を引き起こします。

 このように、私たちが普段何気なく食べたり、飲んだり、身の回りに飾ったりしている「一見何の危険性もなさそう」なものが、犬や猫たちにとっては危険を及ぼす可能性のある物質であることも珍しくありません。思わぬ事故を起こさないように充分注意して、小さな命を守ってあげてください。


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