■■「マラセチア性外耳炎」の治療に抗真菌剤は必要か?


 

 マラセチアというのは正式名称;Malassezia Pachydermatisと言って、犬の皮膚に常在する酵母菌の一種です。「常在する」というのは、正常な犬の皮膚にも普通に存在していて、通常は何ら悪さをしない、ということです。マラセチアは皮膚にも存在しますが、特に口の周囲の皮膚や耳の中、ときには肛門嚢の中などに多く見られます。アレルギー性皮膚炎や脂漏症、角化異常症、抗生物質の使い過ぎ、などの際に過剰に増殖して、皮膚の炎症や痒みを引き起こす原因になったりします。

 「外耳炎」は犬で頻繁に見られる疾患です。様々な原因により、外耳道に炎症を起こして痒みや痛みを引き起こします。外耳炎を起こしている耳では多くの場合、耳道内に耳ダレ(炎症性の浸出液)や耳垢が大量に見られます。この耳垢・耳ダレを顕微鏡で観察してみると、マラセチアが大量に増殖しているケースが頻繁に見られます。このような時、他に主な寄生体が見られなければ「マラセチア性外耳炎」と診断されます。

 マラセチア性外耳炎の治療には通常、抗真菌剤入りの点耳薬や、ときには抗真菌剤の飲み薬を使用したりするのが一般的です。しかし、本当に抗真菌剤が必要なのでしょうか?

 採取された耳垢の中にマラセチアが検出された場合、実はその全てが「マラセチア性外耳炎」と診断してよい訳ではありません。別の原因で外耳炎が起きて、二次的にマラセチアが増殖している可能性もあります。むしろこのような二次的な増殖であるケースの方が大多数であると考えられますが、実際には「大量のマラセチア」が見つかった段階で、とりあえず「マラセチア性外耳炎」と診断され、抗真菌剤を処方されてしまうことが非常に多いと思われます。

 マラセチアはもともと常在菌です。皮膚や耳道粘膜に炎症が起きて浸出液が溜まったり、耳垢が大量に蓄積したりすると、それを栄養分にして増えます。増えすぎると、マラセチア自身が「痒み」の原因になることもありますが、基本的にはマラセチアが増殖する「環境」を改善することが先決であるはずです。これは、創傷治療において、感染創をいくら消毒しても、細菌増殖の培地となっている「異物」を取り除かなければ意味が無い、というのと同じ発想です。マラセチアが過剰に増殖できるような「栄養分」;つまり浸出液や耳垢を徹底的に取り除き、一定以上増殖できない環境にしてやれば、マラセチアはそれ以上増えなくなります。それでも炎症が激しい場合は、ステロイドなどの消炎剤などの点耳薬を使用して、浸出液の分泌を抑えれば、「マラセチア性外耳炎」は治癒するはずです。ワンパターンに「抗真菌剤」を使用する正当性がどれだけあるのか、非常に疑問だと思っています。

 もちろん、全ての例にこの考えが当てはまる訳ではありません。アレルギーや脂漏症などの基礎疾患が重度で内科的な管理に限界がある場合には、二次的なマラセチアの増殖を防ぐことが非常に困難なこともありますし、マラセチア自体にアレルギーを示してしまう場合もあります。また、動物の性格上、耳垢を十分に取り除くための「耳掃除・洗浄」が不可能なケースも実際には多々有ります。このような場合には、抗真菌剤の外用または内服薬を使用して、マラセチアの数を減らすことは無意味ではないと考えます。しかしながら現在、巷で所謂「マラセチア性外耳炎」に対して安易に処方されている「抗真菌剤」の約半数(あるいはそれ以上)は、無駄な使用である可能性が高いような気がしています。

2004/9/9


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